最終章:インセル(後編)
その日、ミレイユはアルフィリアに教えてもらって、インセルが暮らしている別荘を訪れていた。手にはかわいくリボンで飾り付けたカパルのジャムが握られている。前にアルフィリアと一緒に作ったものだ。あのとき助けてくれたお礼に持ってきたのだった。
インセルの暮らす別荘はどこよりも一際大きく、とても立派な庭付きだった。伯爵家の別荘よりも少し大きいかもしれない、とミレイユは思う。オシャレな扉をトントンとノックすると、すぐにメイドらしき人物が顔を出した。
「こんにちは」
ミレイユはかわいらしくお辞儀する。
「失礼ながらどちら様でしょうか」
ミレイユは白いレースの入ったワンピースと帽子を被っていたため、どこかの町娘だと思われたのだろう。ミレイユは、ベルナルディー伯爵の娘だといい、インセルに会いに来たことを伝えるとメイドはお辞儀をして引っ込んだ。バタバタと建物の中から慌てたような足音が聞こえたと思うと、バンっと扉が開いてミレイユはびっくりする。見ると息を切らしたインセルが立っていた。そんなに急いで出てこなくても、とミレイユは戸惑う。
「どうしたの?」
そう問われただけなのに、インセルからなぜか威圧感を覚えてミレイユはうっとなる。後ろで隠していた手を前に出し、この間のお礼を渡しに来たのと答えた。インセルは思いもよらなかったのかハシバミ色の瞳を見開き、差し出されたリボン付きのジャムを見つめた。
「...入れよ」
扉を開けて言われ、ミレイユはなぜと思いつつお邪魔した。玄関先で手渡してすぐ帰ろうと思っていたからだ。
家の中はすべて木で出来ているのかと思うくらい剥き出しの木の壁や床に囲まれていた。さわやかな木の香りがしてミレイユは無意識にすうっと深呼吸する。そして、とてつもなく広かった。家具もすべて木造りのもので、おしゃれな調度品ばかり。
案内されたのはリビングルームで、巨大な木を切り倒して造られた豪華なダイニングテーブルが目に飛び込んできた。そこに座ってと言われてちょこんと座ったミレイユは、落ち着かない気持ちでキョロキョロとリビングルームを見渡す。巨大なテーブルに乗った小さなジャムの瓶があまりに質素で安っぽく見える。なんとなくこの家にあること自体が間違っている気がしてなんだか恥ずかしくなった。
キッチンでカチャカチャとなにか作っていたインセルは、木のお盆を持ってミレイユの元へ戻ってきた。そのお盆には手作りらしきクッキーやカップケーキが乗っており、ミレイユは思わず目を輝かせる。冷たいオレンジティーが入った透明なポットを傾けて、インセルが美しいカップに入れてくれた。
ミレイユが見つめていたお菓子をパッパッとトングで取るとお皿に並べてくれる。上品なお皿と美味しそうなお菓子に目が釘付けになった。
「ん」
インセルはミレイユの向かい側に座ると、手を出してきた。ミレイユは首を傾げる。
「ジャム、持ってきたんだろ?」
「あ、うん」
ミレイユが手渡すと、インセルはじっとジャムを見つめて瓶を開けた。軽く香りをかいだかと思うと「カパルの実のジャムだ」と言い当てたのでミレイユは驚く。
「なんで分かったの?」
「香りですぐ分かるだろ」
インセルが呆れたようにミレイユを見てきた。ミレイユは香りだけでは分からないので純粋にインセルを尊敬した。
「メイドのアルフィリアと一緒に作ったの」
「ミレイユが?」
コクンとうなずくミレイユをよそにインセルはじっと瓶を眺めると、蓋をして隣に置いた。てっきりその場で食べるのかと思っていたミレイユは拍子抜けする。
「このお菓子食べてもいい?」
「どうぞ」
ミレイユはお菓子を食べた。とっても優しい味がしてミレイユは美味しさのあまりうっとりする。対してインセルは食べもせずに頬杖をついて食べているミレイユを眺めるだけだった。
「美味しいか?」
「とっても!」
そこで初めてインセルはふっと笑った。その瞬間、インセルの周りに花が咲いたような気がしてミレイユは手を止める。三つ編みにした白銀の髪とハシバミ色の瞳、それに天使のようにかわいらしい顔に微笑まれてミレイユはなぜだか恥ずかしくなった。視線を逸らしてお菓子を見つめる。ミレイユの頬がすこし赤くなっているのをインセルは黙って眺めた。
「なあ、お前の目。ずっとそのままなのか?」
突然話を振られてミレイユは顔を上げた。インセルはミレイユの黄昏色の瞳を見つめている。瞳孔が縦になったままなのは、いまも相変わらずだった。
「分からない。お医者さまは、しばらくそのままだろうって言ってた」
「ふうん」
インセルは興味を失ったようにオレンジティーを飲んだ。かと思えば急に椅子から立ち上がってミレイユの隣に移動すると、ミレイユの隣の椅子に座ったのだった。行儀悪く片膝を立てテーブルに肘をつき、じっとミレイユの目を見つめてくる。さっきまで上品に紅茶を飲んでいたのによく分からない男の子だなとミレイユは思った。
インセルがミレイユの瞳を飽きずにじっと見つめてくるので、ミレイユはあまり見て欲しくなくて目を逸らした。
「なんで逸らす」
「...あんまり見ないで欲しいから」
インセルは首を傾げた。
「キレイなのに?」
そう真顔で言われてミレイユはぼっと顔が赤くなった。アルドロスやセルドラにだって、まだ面と向かって言われたことはない。
「...あ、ありがとう」
ドキマギするミレイユを眺めたインセルは、爆弾発言をかました。
「発情期が来たんだろ?」
ミレイユは思わず飲んでいたオレンジティーを吹き出すところだった。
「き、来てないっ!」
ミレイユには発情期は来ない。だが、絶対に来ないかと聞かれるとミレイユもよく分からなかった。瞳の変化だって本来ならないはずなのに、なぜかミレイユの瞳は変化したのだ。この世界に来てからなにかの影響を受けたのだろうか。ミレイユはよく分からなくて黙る。
インセルは首を傾げた。
「じゃあ、誰かに酷いことをされたのか?」
その問いは二度目だった。一度目は医院で初めて会った時。そのときは意味がよくわからなくて答えられなかったが、実はいまもよく分からない。
「どういう意味?」
「発情した人間と無理やり交わると、影響を受けて自分も発情することがあるんだ」
ミレイユはポカーンとした。思い当たる節はありまくりだ。アルドロスとセルドラは、あのとき発情期だった。確かに無理やり襲われたと言えばそうかもしれない。そのとき相手の発情に当てられてミレイユの瞳は無理やり変化し、後遺症のように瞳が戻らなくなった、そう考えると納得した。
ミレイユが悶々と考えていると、インセルは心配そうに眉をひそめた。
「無理やり襲われたのか?」
「うーん...?」
よく分からなくてミレイユは目を伏せる。すると、インセルが手を伸ばして優しくミレイユの頬を撫でた。ミレイユが瞳を向けると、インセルはとても辛そうな表情をしていた。思わず、撫でているインセルの手に自分の手を重ねた。ふたりはしばらく見つめ合った。ハシバミ色の瞳を見てミレイユはふと考える。インセルの瞳が変化したらどんな色になるんだろう、と。
「どんな色になるんだ?」
それはインセルも同じだったようだ。ミレイユは小さく首を振ると分からないと呟いた。ミレイユのシネスティアを知っているのは、アルドロスとセルドラだけ。ミレイユは、ふたりを思い出したとたん、インセルとこうしているのは間違っている気がして立ち上がった。
「どうした?」
インセルがミレイユを見上げる。
「...もう帰らなくちゃ」
ワンピースをひるがえして帰ろうとすると、パシッと手首を掴まれた。だが、ミレイユは振り返らなかった。
「急にどうしたんだよ」
「......」
先程までの怪しい雰囲気を思い出して、ミレイユは首を振る。
「アルフィリアにすぐ帰るって言っちゃったの。だから、きっと心配してるわ」
ミレイユがそう言うと、インセルは手首を離した。
「送ってくよ」
インセルと並んで小道を歩いた。木のトンネルをくぐっている間、ふたりとも黙ったまま言葉を交わさなかった。
ミレイユはふと、インセルに無理やり襲われたのかと問われたとき、誰に襲われたと根掘り葉掘り聞かれなかったことに気付いた。そして、崖の話題も出なかったことにも。崖上で助けてもらったお礼をしにきたのに、不自然なくらいインセルは話題にしなかった。ミレイユはちらりとインセルの横顔を見る。
(気を遣ってくれたのかな...?)
もしそうなら、インセルはとても優しいのかもしれない。そう思ってミレイユは心が温かくなった。
隣を歩くインセルの手にそっと手を伸ばして触れる。インセルは何も言わずミレイユの手を握り返してくれた。
伯爵家の別荘に着いたとき、別荘の傍に馬車が止まっているのが見えた。その馬車の家紋を見た瞬間、ミレイユは別荘へ走った。そのとき、別荘から見慣れた少年が出てきてミレイユは泣きそうになる。広げられた腕の中に思い切り飛び込んだ。
「アルドロス...!!」
なんで、どうして?でも、そんなことより嬉しい...!ミレイユは言葉にならない声を上げてぎゅっとアルドロスを抱きしめた。アルドロスはミレイユを護るようにぎゅっと腕に包み込むと、よしよしと頭を撫でてやる。
「色々ごめん、ミレイユ」
顔を上げたミレイユはアルドロスを見つめて首を振ると、背伸びをしてキスした。
アルドロスもキスを返していると、なにやら視線を感じて目を向けた。すると見知らぬ少年が立ってじっとこちらを見ておりアルドロスは怪訝に思った。だが、少年はすぐに背を向けると小道を引き返して去っていった。少年がどんな表情をしていたのかまでは遠くてよく分からなかった。
夢にまで見た羊皮紙とインクの香りを思いっきり吸い込み、アルドロスの温かい体温に包まれてミレイユは安心する。ふと、インセルのことを思い出して振り返るがそこにはもう誰もいない。誰かを探す素振りをするミレイユを、アルドロスは見つめた。
「さっきのやつなら帰ったよ」
「そうなんだ。悪いことしちゃったな...」
ミレイユが俯くと、アルドロスは顔を寄せて口付けた。
「あいつ誰?」
「友達よ。インセルっていうの」
「...ふうん」
アルドロスは顔を上げてさっきまで少年がいた場所を見つめたのだった。
その後、ミレイユとアルドロスは別荘に戻り、いろんな話をした。夜も遅くなってしまったのでアルドロスは一晩泊まっていくことになった。
その夜、アルドロスはミレイユを抱きしめながら眠ってくれた。ミレイユも、アルドロスの気持ちやセルドラとの3人の未来を聞いて久しぶりにぐっすり眠りに落ちた。遠くからわざわざお見舞いに来てくれたことがなにより嬉しい。それに、アルドロスはセルドラから言伝も持ってきてくれた。それもとても嬉しかった。
ミレイユは幸せな気持ちでいっぱいになる。ふたりの王子様を好きになってもいいんだと。
朝になった。ふと、アルドロスから襲われなかったことをちょっと残念に思うミレイユ。私はなんていやらしいんだろう、と自己嫌悪になったが、不満そうなミレイユを見てにやっと笑うとアルドロスは教えてくれた。
曰く、いまは発情期ではないとのこと。だから性欲が湧かないのだとアルドロスは言った。ミレイユは不思議そうな顔をした。この世界の男の子は落差が激しいんだなと思う。アルドロスは最後にミレイユにキスすると、また手紙を送ると言って馬車に乗り込んだ。
アルフィリアとふたりで馬車を見送る。馬車が見えなくなったあとも、ミレイユはずっと小道に立って見送っていた。それをアルフィリアはなんとも切ない気持ちで見たのだった。
その日からミレイユは急に元気になった。明るい性格に戻り、宿題も積極的にこなした。アルフィリアとふたりでお菓子を作ってはお茶会を楽しんだ。薬や鏡をみても悲しい気持ちになることはなくなった。ふたりからの手紙を前よりも待ち遠しく感じ、届いた手紙は何度も読み直した。
そんなある日。ミレイユが宿題を終えてベランダに顔を出すと、砂浜に人がいるのが見えたのだった。帽子を被って砂浜へ足を踏み入れる。
「インセル?」
声をかけると少年は振り返った。三つ編みにした白銀の髪を風になびかせながら、黒いズボンに手を入れて佇んでいる。インセルに会うのは久しぶりだった。
「......」
ミレイユが声をかけてもインセルは黙ったまま何も言わない。ミレイユは不思議に思い、インセルの元へ行こうとした。すると、身体が持っていかれそうなくらい強い海風が吹いて、あろうことかミレイユのワンピースが裏返り下着が丸見えになってしまった。
「きゃあっ!」
慌てて手で押さえるが時遅し。恐る恐るインセルを見ると、インセルは目を丸くしたまま固まっていた。
(見られちゃった...? ううっ、恥ずかしいっ...!)
ワンピースを押さえたまま顔を真っ赤にするミレイユ。くるりと回れ右をして別荘に引き返そうとしたら、手首を掴まれた。振り返ればインセルが複雑そうな表情でミレイユを見つめていた。
そういえば、インセルにはよく手首を掴まれるな、とミレイユは思う。顔を真っ赤にしたままインセルと見つめ合っていると、インセルは困った顔で視線を逸らした。
「...ちょっと話さないか」
「...?」
インセルに連れられてやってきたのは、ゴツゴツした岩陰だった。砂浜よりもすこし涼しい。ふたりは岩陰に座り込むと、無言で海を眺めた。
「......」
なぜかなにも話そうとしないインセルを横目で見る。その横顔がすこし儚げで、いまにも消えてしまいそうな気がしてミレイユはドキッとする。
ふと、医院で出会ったときのことを思い出した。なぜ、インセルは医院にいたのだろうか?
それを訊ねると、インセルはちらりとミレイユを見たあとすぐに海に視線を戻した。
「発情期が来ないんだ」
「えっ?」
ミレイユはびっくりしてインセルを見る。インセルはなんでもない風に言ったが、ミレイユにはよく分からない。
「それって...どうなるの?」
恐る恐る訊ねると、インセルは答えてくれた。
「成長スピードが遅くなるんだと。だから、発情期を誘発するような治療を受けてる」
「そうなんだ」
ミレイユはそれを聞いて驚いた。発情期が来ないと成長が遅くなるだなんて。そういえば前にベアトリス夫人が教えてくれたとき、発情期が来るのは、未熟な身体を成長させるためだと言っていた気がする。ミレイユも、このまま発情期が来なければ治療することになるのだろうか。そう、ふと不安になる。
「治療ってどんなことをするの?」
インセルは目を瞬かせると、うーんと声を出した。
「注射を打ったり、薬を飲んだり。...あとは、発情期の女の子としたり」
ミレイユは耳を疑った。目を丸くしてインセルを見る。脳裏に以前、インセルが言っていたことを思い出した。
『発情した人間と無理やり交わると、影響を受けて自分も発情することがあるんだ』
つまりは、そういったことを治療として行っているということだろう。
「嫌じゃなかった?」
思わず聞いてしまう。インセルは表情を変えずに答えた。
「初対面じゃなかったから特に何とも。ただ...」
そのあとの言葉は続かなかった。ミレイユは思わず生々しい光景を想像してぞっとする。その瞬間、ふと、以前インセルから無理やり襲われたのかと聞かれたとき、インセルがまるで自分のことのように辛そうな表情だったのを思い出して心がぎゅっとなった。
海を見つめるインセルにそっと手を伸ばす。手を握ると、ハッとインセルがミレイユを見た。
「ご、ごめんなさい。嫌だった...?」
ミレイユが顔色を伺うと、インセルは表情を和らげてすこし微笑んだ。天使のような笑みを向けられてミレイユはちょっと恥ずかしくなる。
顔を赤らめて俯くミレイユに、インセルは顔を近づけた。ハッとして顔を上げたミレイユに、インセルはキスしてきた。柔らかくて、すこし湿った感触にミレイユは目を見開いた。
インセルがすぐに離れたので、ミレイユはぼう然としたまま固まっている。そのまぬけな表情にインセルはすこし吹き出した。我に返ってむっとするミレイユは、インセルがなぜキスしてきたのか分からず戸惑う。じっとインセルを見つめるとインセルは落ち着いた表情でミレイユを見返した。
「...発情していたらよかったのにな」
「......」
自虐的にそう呟くインセルがどこか儚げで、いまにも消えてしまいそうに見えた。ミレイユは繋ぎ止めるように手を強く握り返すと、ぐっと身を乗り出して言った。
「試してみない?」
「え?」
目を瞬くインセルに、ミレイユはさらに身体を乗り出して馬乗りになった。インセルがぎょっとしている。
「私と交わるの」
ミレイユは自分で言いながら顔が真っ赤になるのが分かった。だが、インセルがこのまま消えてしまいそうで、ミレイユはどうにかして引き止めたくなったのだ。インセルはポカーンと口を開けて上に乗ったミレイユを見つめる。インセルがなにも言わないのでミレイユは段々恥ずかしくなり、さらに顔を赤くさせた。よくよく考えてみれば発情していないミレイユはインセルを発情させることが出来ない。そもそも、ミレイユは自分が発情するのかも分からないのだ。あまりの自分の浅はかな考えにミレイユは自己嫌悪に陥りそうになった。
インセルの上から退こうとすると、インセルがミレイユの手を握って引き止めた。
「...ミレイユの瞳を見ながらしたら、俺も変化するかもしれない」
ミレイユはゴツゴツした岩肌に身体を横たわらせて仰向けになった。インセルが覆いかぶさって真上からミレイユの変化した瞳を見つめる。
ミレイユはドキドキしながら、インセルが他の女の子と交わったときはどんな感じだったんだろう、と思う。
「嫌だったら言って」
真面目な顔でインセルが言うとミレイユは軽くうなづいた。ちゅっちゅと何度も口付けをすると、インセルはミレイユのワンピースをたくしあげた。両足を開かせ身体を入れたあと、下着をスルスル脱がしていく。手馴れた手際にミレイユはドキンと胸が高なった。インセルは、こういうことをどれくらいしたんだろう...。全部同じ女の子としたのかな。ミレイユがふとそんなことを考えていると、インセルは顔を埋めてミレイユの秘所を舐めてきた。
「ひゃっ!? んっ! あっあっ!」
インセルの熱い舌が何度もミレイユのクリトリスを丁寧に愛撫する度にミレイユの全身に強烈な快楽が走った。まるで神経を直接舐められているかのようにビクンビクンと足が痙攣する。うち震える足の間でインセルは目を伏せたまま優しく愛撫した。
「んっひゃっう、あっインセ、ルっ!」
今まで経験したことのない快感にミレイユは恐怖してインセルの頭を掴んだ。慣れているのか、インセルは構わず舌を動かす。
「あっ! あっ...! んくぅっ」
ミレイユの中で快楽がはじけて頭が真っ白になった。ビクッビクッと全身を痙攣させて快感を味わう。ミレイユが激しくイっている間もインセルは執拗にクリトリスを攻め、真っ赤になった小さな蕾をちゅうっと吸い上げた。
「...!!! はっはっ...ぁっ!」
その瞬間ミレイユは足をピンっと伸ばして目を見開いた。目の前でチカチカと星が瞬いている。小さな身体から強烈な快楽を逃がそうと手をぎゅぅっと握りしめブルブル震えた。絶頂の波がようやく去り、ミレイユは身体をぐったりと横たわらせて荒い息を吐く。インセルはようやく顔を上げて服の袖で口元を拭うと、ヒクヒクと震える秘所に指を挿入した。くちゅくちゅと水音が岩陰に響いて、ミレイユのそこが潤ったことを知らせる。
何度もゆっくり指を抜き差ししてミレイユのようすを見つめると、インセルはぐちゅりと指を引き抜いた。
「あっ...」
異物感がなくなって少し寂しい気持ちになる。インセルは上着を脱いで白いシャツだけになると、ガーターベルトを取ってズボンを下げた。ミレイユは天を向いてそそり立つインセルのそれを見てぎょっとする。想像より大きかったのだ。
(あれ、そういえばインセルって何歳なんだろう。もしかして、年上...?)
同じ年にしか見えないが、そういえばインセルが前に発情期が来ないと成長スピードが遅くなると言っていた気がする。もしかすると、ミレイユが思っている以上にインセルは年上なのかもしれないと思う。
「あっ」
くちゅりと先っぽが宛てがわれた。インセルはそのまま腰を進めるとゆっくりミレイユの中へ入っていった。ミレイユは今まで経験したことのない圧倒的な異物感に思わず息を止める。無意識にインセルが少しでも入りやすいように足を広げた。インセルは柔らかく時折キュッキュッと締め上げてくるミレイユのあそこがとても気持ちよくて、くっと眉をよせてハシバミ色の瞳を伏せる。
何度か腰を前後してようやく奥まで入った瞬間、インセルとミレイユは見つめあった。前戯で何度もイったせいで汗ばんでいるミレイユをインセルは眺める。首に張り付いた銀色の髪がなんとも色っぽい。余裕のありそうなインセルとは正反対に、ミレイユは全く余裕がなかった。圧倒的な物量をお腹に感じてはっはっと短い呼吸を繰り返す。インセルはそのまま動かずじっとミレイユの瞳を見つめた。
「発情期はまだなんだろう?なのになんでシネスティアの色が浮かぶんだ?」
ミレイユは意味がよくわからなくて短い息を吐きながら首を傾げる。インセルが目を細めて顔を近づけた。1本の三つ編みにした白銀の髪がサラリと背中に流れる。
「変わったヤツ...」
唇が触れるか触れないかの距離でインセルがささやいた。うつろな目で見上げたミレイユは、インセルの瞳の変化に気付いて目を見開いた。
「インセル、目が...」
ハシバミ色の瞳が揺れている。瞳孔がググッと縦に伸び、虹彩が鮮やかになった。それに伴ってインセルの雰囲気が急激に変わっていく。獣のようなインセルの瞳を見てミレイユはごくりと唾を飲み込んだ。突然、インセルの喉の奥からグルルという唸り声が聞こえたかと思うと我を忘れたように激しい口付けをされた。
「んっ、むぅっ...!」
ミレイユはびっくりしてインセルにしがみつく。白いシャツに土埃が付いて汚れる。インセルが律動を初めたためお腹の中にあるインセルのそれがさっきよりも大きくなってることに気付いてミレイユは驚いた。ガツガツと獣のように激しく動かされてミレイユの身体がガクガクと揺れる。
「ミレイユ...あぁっ、はっ」
気持ちよさそうに呻くとインセルは背中を反らして快楽に集中するように顔をしかめた。さらに律動が早くなり、力強く打ち付けられる衝撃にミレイユも気持ちよくなる。奥深くまで肉棒が届き、ミレイユの気持ちいいところを擦っていくため、抜き差しされる度にとろけるような気持ちよさがミレイユを襲う。天国にいるみたい、それくらい気持ちいい...。
ミレイユの惚けたような色っぼい表情を見て、インセルの瞳がハシバミ色から鮮やかな若葉色へ変化した。同じく変化しきったミレイユの瞳は銀色に光り輝いてとても美しく、まるで月の女神のようだった。潤んだ銀色の瞳を見ていると凶暴な欲望が牙を剥く。自分の中にこんな獣が眠っていたのかとインセルは驚いたが、初めての発情に理性は吹っ飛び、一切の余裕を無くしていた。
「あっ、はぁっん、あっあっ...!」
力強く突き上げる度に気持ちよさそうに背を反らして絶頂するミレイユがあまりにかわいくて、インセルはますます自分のものにしたくなる。目覚めた雄の本能が「孕ませろ」と訴えてきた。
「はぁ、くっ」
インセルは身体を震わせるとグッと腰を強く押し付けて欲を解放した。ミレイユは中のものが一瞬大きくなった気がして思わずキュンッと収縮する。喘ぐようにインセルが何度もグッグッと前後させたため、ミレイユは軽く揺らされながらぼんやりインセルを見上げた。尿道の中を精液が通る度にインセルの全身に強烈な快感が走ってブルブル震えた。とても気持ちがいいのか天使のような顔を恍惚とさせている。
ミレイユのお腹の中で肉棒がビクッビクッと痙攣しているのが分かった。肉棒が跳ねる度に、マグマのように熱いものが中にじんわり広がっていく。子宮がまるで射精を促すように何度もキュンキュン収縮した。
生まれて初めての射精に身体を震わせるインセルを、ミレイユは頬を染めながらぼうっと見上げる。子種で満たされたお腹の中で、さらに孕ませようと肉棒がビクビクと律動した。
長い射精がようやく終わり、大きなため息と共にずるりと引き抜かれるとミレイユは小さく甘い声を出した。はあはあ、と息を荒らげてぼう然とするインセルの瞳が、ゆっくりと元に戻るのをぐったりしながらミレイユは眺めた。ミレイユの足の間から白い液体がごぽりと溢れ出る。
「......」
生まれて初めての発情期と精通を迎えたインセルは、一気に疲労を感じてガクッと岩に手をついた。ふらつくインセルをミレイユは心配したがイキすぎたせいで身体がだるくて助けてあげることができない。見上げた空は黄昏を通り越して紫色に染まっていた。もう帰らないといけないと思いつつ、あまりに眠くて仕方がなかったミレイユはそのまま目を閉じた。インセルもひどく疲れていたためミレイユを抱きしめるように眠ったのだった。
その夜、居なくなったミレイユとインセルを捜索していた人々にふたりは見つかった。明らかに事後だと分かったが、子どもがしたことなのでその件を言いふらす人間はおらず、むしろ微笑ましい話で終わったのだった。発情期があるこの世界ではままあることらしい。誰もが通る道だと、起こされたふたりは大人たちから言われた。
インセルがなぜ突然発情したのかはミレイユには分からなかったが、めでたく発情期を迎えたインセルは大人たちから盛大にお祝いをされた。特にインセルの家族の喜びは大きく、手助けしたであろうミレイユの元には高級なお菓子が山ほど届いたためアルフィリアと驚いた。
アルフィリアからインセルについて話を聞くと、どうやらインセルは地方貴族の中でもかなり上位の貴族らしく、由緒ある名家のご子息なのだそうだ。以前、医院で初めて出会ったときに一緒にいた老夫婦はインセルの祖父母で、発情期が来ないことを一番心配していたのも彼らだったらしい。
発情期って、そんなに重要なものなんだ...とミレイユはしみじみ思う。
しかしミレイユにはひとつ引っかかることがあった。今までミレイユは瞳が変化することはあったが、発情期は来ていないと思っていた。しかし、本当に来てないのだろうか。
今回インセルが発情してわかったことがある。発情期と瞳の変化は同じタイミングで起こるということだ。つまり、発情期が来なければ瞳は変化しない。
ミレイユのこの考えが正しければ、当然ミレイユにも発情期は訪れているはず。しかし、発情期特有の狂おしいほどの飢餓感はないし、あんな風に獣のようになったこともない。男の子と女の子では違うのだろうか。ミレイユはアルフィリアに相談した。
「確かに男女によって発情期の症状は違いますが、基本的には同じような感じでございます」
アルフィリアはそう教えてくれた。
「発情期が来ないと瞳も変化しないと思っていたわ」
「基本的にはそうですが、相手が発情した状態で交わるとなにかしら影響されるとは聞きます。恐らく、ミレイユ様の瞳の変化はその影響ではないでしょうか」
確かにお医者さんも同じようなことを言っていた、とミレイユは思い出した。
「インセルがね、私の瞳を見て発情してないのにシネスティアの色が出てるって言ったの」
アルフィリアがぴくりと反応した。
「...もしかすると、ミレイユ様は発情しかかっているのかも知れません」
それを聞いてミレイユはドキリとした。
ミレイユはその夜、自室にある鏡の前に立って自分の瞳を見つめた。相変わらず瞳孔が縦に伸びて獣のような目になっている。
「あれ?」
だがよく見てみると、黄昏色の虹彩に別の色が混じっているような気がした。
「なんだろう?もしかして、シネスティアの色?」
それはなんとなく銀色っぽかった。ミレイユはすこし悩むとアルドロスに手紙を書いてみた。なぜアルドロスなのかというと、最近、医学の勉強をし始めたと手紙に書いてあったからだ。なにか調べてくれるかもしれない、と思う。それに、アルドロスはミレイユのシネスティアを知っている。ミレイユは自分がなに色に変化するのか知りたかった。
数日後、手紙を受け取ったアルドロスはその手紙の内容に眉を寄せた。
「インセル?」
確か、別荘でミレイユと一緒にいた男の子だったはず。ミレイユがその男の子と成り行きで交わったと書いてあるのが気になったが、ミレイユの瞳の変化とインセルが発情したことにアルドロスは興味をそそられた。
「ちょっと調べてみるか」
現在の医学では、発情期については分かっていることもあれば未だに分からないことも多かった。実はそれだけ不思議な現象なのだ。
アルドロスは発情期についてまとめられた医学論文を取り寄せると、ペラペラと開いて読んだ。
手紙の内容を思い出す。確かにミレイユのシネスティアは銀色だった。それは間違いない。
「アルフィリアの言う通り、ミレイユが発情しかかってるのか?発情してないならなぜインセルは発情したんだ。ただの偶然か?」
基本的には発情期は9-10歳で初めて迎えることになるが、いつ頃やってくるのかは個人差があった。12歳をすぎても発情期が来ない子どもは治療対象になるため、インセルは最低でも12歳を超えてることになる。
「本当にただの偶然か?」
アルドロスには分からない。そして気になることはまだあった。手紙の最後にミレイユから直接言いたいことがある、という意味深な文があったことだ。アルドロスは首を傾げると、次に別荘へ行く日取りを決めて手紙を送ったのだった。
ミレイユがそれを受け取ったのは数日後だった。手紙には医学論文をいくつか調べたが結局よく分からなかったこと、そして2日後に別荘へ会いに来ることが書かれていた。アルドロスが調べてくれたと知りミレイユは喜んだが、よく分からなかったとの文章にすこしガッカリした。だが、アルドロスが来てくれることが嬉しくて飛び上がる。
「アルフィリア! アルドロスが2日後に来てくれるって!」
ミレイユはドキドキと胸を高鳴らせながらアルフィリアに報告した。アルフィリアは嬉しそうなミレイユの表情に、どこか不安な色が一瞬浮んだような気がして不思議に思う。
「なにか不安なことでも?」
アルフィリアが訊ねると、ミレイユは首を振ってなんでもないと言ったのだった。
ミレイユは嬉しかったが同時に緊張していた。アルドロスに、自分の秘密を話そうと思っていたからだ。今回、アルドロスを呼んだのもこのことが目的だった。
アルドロスが来る前日、ミレイユはドキドキして眠れなかった。自室の鏡の前に立って瞳を見つめる。アルドロスの手紙には、ミレイユのシネスティアの色も書かれていた。銀色だと知ってミレイユは想像する。ミレイユは鏡に手を触れると、いつか銀色になった自分の瞳を見てみたいなと思う。ぼんやり鏡を眺めていたら、ふと、昨日よりも銀色が濃くなっている気がした。
翌日、馬車でやってきたアルドロスはミレイユの部屋で話を聞いた。ミレイユの身の上話はにわかには信じられなかったが、証明して欲しいとまでは思わなかった。なぜなら、証明するにはミレイユが傷付く必要があるからだ。
「じゃあ、ミレイユの世界では発情期やシネスティアなんて現象はないのか?」
ミレイユは悩みながら言った。
「すごく小さかったから分からないけれど、たぶん」
姉たちなら、もっと色んなことを知っていただろうなと思う。当時3歳だったミレイユにとって、元の世界の記憶はすでにあいまいなものになっていた。
「ほかの世界か...そんなの考えたこと無かったな。セルドラは知ってるのか?」
ミレイユはうなずく。
アルドロスが意外と冷静に受け止めてくれたのでミレイユはほっとした。しかし、アルドロスの方は深刻に考えていた。本当かどうかは置いておいて、もしそれが本当なら手術することは出来ないだろうとも考えていた。ナイフも通さない強靭な皮膚を裂くことができる刃物があれば別だが。それに加えて住む世界が違うなら、同じ人間に見えても本当に臓器が一緒かどうかは分からない。毒の耐性を付けていたというなら、ミレイユがもしなにか病気になっても薬が効くかも分からない。アルドロスは焦げ茶色の瞳を細めるとミレイユを見つめた。
だが、分からない以上は保留にするほかない。
「アルドロス、私の瞳っていつ戻るのかな?」
訊ねられたアルドロスはミレイユの瞳を見つめながらいった。
「俺も分からないな。けど、いつかは元に戻ると思う」
「そっか...」
ミレイユは前向きに考えようと思った。アルドロスに微笑みかけると、アルドロスはぐっと顔を寄せた。
「で、インセルと交わったってなんだ?」
アルドロスはすこし怖い顔をしていた。ミレイユはドキッとすると、しどろもどろになりながら事の顛末を話したのだった。
「俺はセルドラはいいと言ったけど、ほかの男と交わっていいとは言ってない」
「ご、ごめんなさい...」
ミレイユはしゅんと身体を縮こまらせたが、さほどアルドロスは怒っていないようだった。
「もう二度とするなよ?」
「はい...」
ミレイユは深く反省したのだった。
それから1か月後。夏の日差しが弱まり、秋口が見えた頃にミレイユは鏡を前に目を輝かせた。
「目が戻ってる!」
それは早朝の出来事だった。とうとう瞳が元に戻ったのだ。黄昏色の瞳がキラキラ輝いている。瞳孔は元の形に戻り、銀色がかっていた瞳の色も黄昏色に落ち着いた。
「やったー! アルフィリア! 見てみて!」
アルフィリアに報告すると、彼女は一瞬驚いた顔をしたが嬉しそうに表情をほころばせた。
「お嬢様! ああ、目をよく見せてください」
アルフィリアはミレイユの頬を両手で包み込み、美しい瞳を覗き込んだ。
「本当ですね。まるで宝石のようにキレイです」
「えへへ、ありがとう。アルフィリアもキレイよ」
「私の自慢のお嬢様ですよ」
ミレイユとアルフィリアはぎゅっと抱きしめ合った。
目が戻ったとの報告を受けて、早速やってきたベアトリス夫人はミレイユを医院へ連れていってくれた。
医院に着いたとき、入口に見慣れた姿を見てミレイユは目を見開く。医院から出てきたのはインセルだった。傍にはニコニコ顔の老夫婦が立っている。あの日、初めてインセルと出会った日のことをミレイユは思い出した。
「インセル、久しぶりだね」
ミレイユに気付いたインセルがこちらに歩いてきたためミレイユは微笑んだ。インセルに会うのもあの日以来、とても久しぶりだった。
「目が戻ったんだな」
帽子を被っていないミレイユを見て、インセルは悟った。ミレイユの瞳をじっと見つめている。
「そうなの。だからお医者さんに診てもらうの」
インセルは話し込んでいる老夫婦とベアトリス夫人をちらりと横目で見ると、そっとミレイユにキスしてきた。ミレイユは目をパチパチ瞬かせる。ふと、インセルの背が前より高くなっている気がした。
「俺が治ったのもミレイユのおかげだ。ありがとう」
天使のような微笑みを向けられてミレイユはほんのり頬を赤くさせる。
「またな」
最後にミレイユの耳に顔を寄せてそうささやくとインセルは去っていった。三つ編みの白銀髪を揺らして。
お医者さんの太鼓判をもらって見事に元に戻ったミレイユは、久しぶりに屋敷に帰った。別荘にいるアルフィリアにはまた会いに来ることを約束した。本当はとても寂しかったがぐっと堪える。
どうしてアルフィリアは屋敷に来ないのかと訊ねると、アルフィリアはこの地が好きなのだという。だから、自らベルナルティー伯爵に志願して、別荘の管理をひとりで担っているのだという。一人ぼっちだったミレイユの寂しさを優しく包み込んでくれたアルフィリアを、ミレイユは実の姉のように慕っていた。別荘にきてすっかり手紙にハマったミレイユは、アルフィリアに手紙を書こうと思う。
ミレイユは本当に久しぶりに屋敷へと帰ってきた。すると、屋敷の前に見知った男の子たちが立っているのが見えて、ミレイユは馬車から急いで降りると思いっきり駆けた。
「アルドロス! セルドラ!」
わざわざ屋敷の前まで迎えに来てくれたセルドラとアルドロスにミレイユは抱きついた。ふたりも久しぶりにミレイユに会えてとても嬉しかった。
「おかえり...」
3人がぎゅっと抱きしめ合っていると、ゴホンと咳払いが聞こえてミレイユは声のした方を見上げる。
「旦那様...」
そこには旦那様がいた。優しく微笑みながらミレイユを見ている。
ミレイユはきゅっと唇を結ぶと、思いっきり頭を下げた。
「心配かけさせてしまって、ごめんなさい」
旦那様は優しかった。ミレイユを咎めることもなく、ミレイユをぎゅっと抱きしめると「おかえり」と言ってくれたのだ。旦那様の愛を感じてミレイユは涙が出そうになった。
ミレイユはとても幸せだった。
これから色んなことが待ってるかも知れない。未来は分からないから、きっと大変なこともあるだろう。けれど、アルドロスとセルドラがいる。ベルナルディー伯爵とベアトリス夫人もいる。それに、かわいいリオネルも。
一瞬だけインセルが頭に浮かんだが、ミレイユは心の中に仕舞うことにした。縁があれば再会するかもしれないし、もしかすると再会しないかもしれない。
優しい温かさだけが、ミレイユを包み込んでいた。ミレイユは、この世界に来てよかったと心の底から思った。