『精霊狼』
精霊と共に生きる内に、精霊と自然に融合した狼。精霊族からは「半端者」と呼ばれている。精霊にもたくさんの種類がいるが、精霊と融合して生まれた精霊狼は精霊の中でも特殊とされている。
様々な自然精霊と融合しているため精霊狼は多くの一族に別れており、自分たちの縄張りを護っている。基本的に縄張りから出ることはほとんどないため、他の一族と交流することは滅多にない。
普通の狼と比べて非常に知性が高く、お互いに念話(テレパシー)を使い会話しているとされる。
半端者と呼ばれてはいるが一応は精霊であるため、闇に堕ちることがある。この現象については後述する。
攻撃的な一族とそうではない一族がおり、性格は一族の気質によるところが大きい。
詳しいことはほとんど分かっていない。
【月光の一族】
真っ白な毛並みと黒い瞳の狼。
月の光を身体にまとっており、身体がぼんやりと光っている。月の満ち欠けによって光の量が変わり、それにより力が左右されるため新月の日は月光の一族にとって最もツラい一日となる。逆に満月の夜は他族をしのぐほどの強い力を発揮する。主に夜に活動する。月の光を辿って瞬間移動のように離れた場所へ飛ぶことが可能。
闇に堕ちた精霊を救う光を持ち、精霊が闇に堕ちないようにする役目がある。
数百年に一度、「月渡り」と呼ばれる者を一族から出し新たな繁殖地を探す。そしてたどり着いた場所を住処とし、番と繁殖して新たな一族のコロニーを作り出す。
【闇夜の一族】
真っ黒な毛並みに銀色の瞳の狼。
闇と共に生きているため、常に暗闇の中にいる。数が一番少なく、また一番戦闘力に優れているとされている。夜行性で、昼間はなるべく暗い場所で眠っていることが多い。
恐らくコロニーは1箇所のみと考えられており、そのせいで長らく発見が遅れた。あまりにひっそりと闇に紛れて暮らしているため、他の一族も闇夜の一族の存在をほとんど知らない。
影に隠れて移動したり闇と同化することが出来る。また、身体が大きいものが多いため筋肉量がほかの一族と比べると多く、そのため戦闘力も高い。
修行の文化があり、幼い子狼は一定の年齢になると強制的に外へ出され鍛えられる。そのため生まれた時から縄張りを出ることがほとんどない精霊狼の中では唯一、外の世界を知っている一族である。
彼らが身体を鍛えるのには理由がある。それは闇に堕ちた精霊たちを始末する役目を代々受け継いでいるためだ。堕ちた精霊がどこにいるのか分かる特別な嗅覚を持っており、特定の縄張りを持たない彼らはかなりの広範囲を移動して堕ちた精霊を倒している。
【光陽の一族】
金色の毛並みと金色の瞳の狼。
毛並みが黄金に輝いており、瞳もまた光を閉じ込めたかのようにキラキラと光を放っている。夜になると輝きは無くなり、太陽が出ている間だけ毛並みが輝く。精霊狼の中でも一番外見が派手な一族である。
夜は一切活動せず、太陽が昇る間だけ活動する。彼らが暮らす地域は温かく、縄張りの中は冬が来ても温かいままだと言われている。
百年に一度、「太陽の審判」という一族の長を決める戦いがあり、勝った者は百年の間長を務めるという伝統がある。一度でも選ばれれば大変な名誉として一族から尊ばれる。この一族はどの狼もプライドが高く、己の誇りと名声を大切にしている。そのためプライドを踏みにじられたと感じた瞬間、相手を地の果てまで追いかけ太陽の裁きを下す恐ろしい存在となる。
恋愛感情がほかの一族よりも豊かでロマンチストが多いとされ、性格も明るい狼が多い。
【灯火の一族】
真っ赤な毛並みに青白い瞳の狼。
毛並みが炎のように揺らいでおり、近付くだけで熱を感じるほど体温が高い。瞳を覗き込むと、瞳の奥に青い炎が灯っているのが分かる。その炎が弱まるとき、死期が近いとされている。
水辺や湿った場所を嫌い、乾燥した大地を好んで生息する。炎を操ることができるため、火事が起こると鎮火することが可能。そのため一族の縄張りの中では火事による被害が圧倒的に少ない。ある地域では一族を火の守り神として崇めており、定期的に供物が捧げられている。
精霊狼の中でも特に攻撃的な性格をしており、非常に好戦的。だが一度でも味方だと認識されれば基本的には攻撃してこない。
満月の夜には火を囲んで踊る「火炎の儀式」を行い、将来の長を期待される若いオス狼とメス狼の番を作る。神聖なる火が若い狼たちの元へ飛んでいき、火によって選ばれた二匹の番が将来の一族の長となる。
【水雲の一族】
青い毛並みと白い瞳の狼。
主に水辺に生息しており、精霊狼の中でも一番数が多い一族とされている。コロニーは巨大な湖を住処にしていることが多く、湖の奥底で暮らしている。水と同化することが出来るため、陸に上がったときのみ実態を現す。水のある場所が感覚的に分かり、水から水へと移動することが可能。また、長は水を生み出す力があるとされており、枯れてしまった湖や川を復活させることが出来るという。
この一族が生息している湖はどれだけ酷い乾期が来たとしても一切枯れることがないとされており、非常にありがたがられている。供物を捧げている地域もあり、そういった地域は特に干ばつがひどい場合が多い。一族が暮らす湖が雨乞いの儀式の場に選ばれることがあり、そのときは人間の村から一番美しい女性が選ばれ、生贄として捧げられ湖の底へ落とされるのが慣例である。
その際は一族の長がその娘をもらい受け、子どもを産ませることがある。その子どもは人間と精霊の子どもであるため何処にも属すことなく彷徨うことが多い。人間たちはその子を「半精霊」や「半霊」と呼び恐れる。
大抵は水の特殊能力を持っており水の豊富な土地に住む。多くは精霊として生きる者、人間として生きる者とに別れる。人間と交わって子どもを作ることもある。
【翠風の一族】
薄緑の毛並みと瞳を持っている。
風と共に生きる狼。他の一族と比べると長毛である。"始まりの地"と呼ばれるコロニーは天空の島にあるとされ、それ以外の地で生まれた一族の狼はみなそこへ行くことを夢見ている。
高い場所を好み、主に崖の上に生息している。風を体に纏わせることで空を飛ぶことが可能で、特に一族の長は大嵐を呼ぶことが出来るとされている。風に乗りどこまでも旅することが出来るため、精霊狼の中では特に一日の移動距離が長い。
豪快な性格の狼が多く、あまりこだわらない。かなりの大食らいであっという間に周辺の動物を食い尽くしてしまうため、コロニーは巨大な縄張りを持ち、その中を常に移動している。
百年に一度だけ「疾風の花婿」という特別な儀式が行われる。その儀式ではどれだけ上手く風を引き寄せられるかを見られ、見事選ばれたオス狼は天空の島を目指して旅をすることが許される。無事に辿り着いた折には、そこで暮らすか、生まれ育ったコロニーに戻るかを選択することになる。
【土竜の一族】
焦げ茶色の毛並みと黒く退化した瞳を持ち、その瞳は視力がほとんどない。土の奥深くに生息する狼。
嗅覚と手足が発達しており、他の精霊狼よりも大きな鋭い爪が生えている。主に土の中で暮らし、穴を掘って生息地を拡大させる。かなり奥深くまで穴を掘るため、精霊狼が下にいると気付く者はほとんどいない。退化した瞳の代わりに嗅覚が非常に発達しているため、どれだけ離れていようとも土に浸み込んだ血を嗅ぎ付けるという。
寡黙であり、交流のないものとは一切口を利こうとしない。だが、一度でも心を開けば驚くほど饒舌になる。疾風の一族と1,2位を争うほどの大食漢でもある。
生息地が限られる他の精霊狼と違い、様々な地域で生息しているため同じ一族でも言葉が若干違うことがある。
それぞれ特色ある一族たち。風習も文化も、語り継がれるものも違う。しかし、唯一共通しているのは、彼らが狼だということ。
【闇に堕ちた精霊】
"死蝶"とも呼ばれる。精霊が何かしらの要因で闇に堕ちる現象のことを言う。堕ちた精霊は二度と元に戻ることはなく、闇の中をさまよい続ける。堕ちた精霊は全身が真っ黒になり、不気味な闇のオーラを纏う。不吉の象徴とされ、それを見た者には死を伴う不幸が訪れるとされている。精霊が堕ちる原因はいまのところよく分かっていない。
死蝶が増えると良くないことが起こるとされており、また死蝶が生まれた場所は不浄に侵されるという。そのため死蝶がいる地域は生き物がいなくなる。
精霊の長が闇に堕ちるとかなりの影響力をもち、またかなり攻撃的になる。それらは大死蝶と呼ばれ、これに攻撃された精霊は必ず闇に堕ちる非常にやっかいな存在である。
【物語の舞台】
大自然が広がる世界で、人間族は少ない。精霊がたくさんいるため精霊信仰が進んでいる。精霊と共に動物たちも暮らしており、その多くは知性が高い。様々な生き物が入り交じり、それぞれ縄張りと種族のルールを守って暮らしている。